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岡山地方裁判所 昭和31年(ヨ)201号 判決

申請人 岩本貞三 外七名

被申請人 高屋織物株式会社

主文

被申請人が申請人岩本貞三、同谷本勝志、同石田信男、同藤代久士、同三木忠男に対し、昭和三一年一一月二日なした解雇の意思表示の効力を停止する。

右申請人等のその余の申請を却下する。

申請人小田原英里、同藤井博、同田中実の申請はこれを却下する。

申請費用中、申請人岩本貞三、同谷本勝志、同石田信男、同藤代久士、同三木忠男と被申請人との間に生じた部分は、被申請人の負担とし、被申請人と申請人小田原英里、同藤井博、同田中実との間に生じた部分は右申請人三名の負担とする。

(注、無保証)

事実

申請人等訴訟代理人は、

一、被申請人が昭和三一年一一月二日申請人等に対してなした解雇の意思表示の効力を停止する。

一、被申請人は申請人等に対し休業を命じその他一切の不利益な取扱をしてはならない。

一、被申請人は申請人等に対し、別表(二)記載の金員を仮に支払え。

一、申請費用は被申請人の負担とする。

との判決を求め、申請の理由として、

一、申請人等は各申請外高屋織物労働組合(以下組合と称す)の組合員であつて、被申請人高屋織物株式会社(以下会社と称す)の従業員である。

右組合と会社との間において夏季一時金並びに退職金規定改訂をめぐり、昭和三一年八月二三日以降争議が発生し、同年一〇月一三日にいたり妥結したのであるが、同時に作成両者間に取交わされた協定書第二項によれば企業整備を目的として「会社は従業員総数三九八名中再建要員を二三〇名として残余の一六八名を減員する、右減員は希望退職者の募集によりこれを行い、その実施及び退職者が所定数に達しない場合の措置については会社組合協議して善処する。」と定められており、右協定に基き希望退職者を募つたところ、一〇月二七日において残留者は二四一名となり、所定の二三〇名を一一名超過したので、この一一名の整理について組合、会社間に団体交渉が行われたのである。

二、叙上の整理については協定書に会社、組会協議して善処すると定められたが、なお組合、会社間の労働協約第三六条には「会社は止むを得ない事業上の都合により事業場の縮少又は閉鎖等のため組合員の整理を必要とするときは、解雇の基準に関し中央労使協議会において協議決定の上これを行う。」と規定されており、整理の基準は双方協議の上決定されるべきものである。而して一〇月二七日の団体交渉において会社はその基準として、(一)勤怠、業務態度、(二)能力(知能、技倆)、(三)徳性(責任観念、品性)の三点を提案し、組合はこれに対し勤続年数、年令その他家庭の状況等を勘案するよう申入たが、会社は一方的に申請人等を整理することを主張して譲らず、再三再四に亘る交渉も暗礁に乗り上げたまま一一月二日会社は申請人等に対し解雇の意思表示をなした。しかし申請人等に対する解雇は次の理由により無効である。

三、本件解雇は解雇権の濫用である。

即ち残留者二四一名中には争議中会社に希望して退職願を申出たのにかかわらず会社の要求により残つている者五名、争議中に組合を脱退して組合より除名処分を受け、会社、組合間のユニオン・ショップ協定により当然会社に解雇義務ある者七名、定年後退職となるべきにかかわらず臨時工の名目で被傭されている者二名があり、会社としては当然まずこれ等を解雇すべきであり、それをさしおいて特に申請人等を指名解雇する理由はない。以上に関係のある各職場における残留人員、過剰人員、希望退職者、除名者、定年者、解雇通知を受けた組合幹部は別表(一)のとおりである。

四、仮りにしからずとするも、一〇月二七日の団体交渉において整理基準に関する協議は尽されておらず、従つて整理基準の決定もなされていないのにかかわらず、会社において一方的に申請人等を指名解雇したのであるから、前記協定書第二項の協定は履行されておらず、労働協約第三六条の趣旨にも違背し、解雇は無効というのほかはない。

五、仮に前記解雇基準が決定されていたとしても申請人等はいずれも解雇基準に該当しないから本件解雇は客観的妥当性を欠き無効である。

六、たとえそうでないとしても申請人等はいずれも高屋織物労働組合の幹部であり、申請人岩本貞三は組合長兼井原支部支部長、同小田原英里は書記長、同藤井博は本部執行委員調査部長、同谷本勝志は本部執行委員教宣部長、同石田信男は本部執行委員組織部長、同田中実は本部執行委員給与対策部長、同藤代久士は本部執行委員労働部長、同三木忠男は本社支部執行委員支部調査部長であつて、いずれも活溌な組合活動をしたものであるところ、残留希望者男子総数は八二名剰員一一名に対し申請人等組合幹部八名を集中的に指名してなされた本件解雇は不当労働行為の意図を推測させるに十分である。即ち本件解雇は明かに不当労働行為というべきである。

七、以上の如く本件解雇の意思表示はいずれの点よりするも無効であるから申請人等は引続き従業員たる地位を保有しているものというべく、現在争議は終息したとはいえ、新に締結されるべき協定の実施をめぐつてなお紛争中であり、申請人等組合幹部の地位の不安定なことは組合活動にとつて致命的障害であるのみならず、申請人等各個人にとつても生活上重大な脅威である上、別表(二)記載の給料を支給されていたのであるが、昭和三一年一一月三日以降正当に解雇されたものとして取扱われ、全然その支給を受けておらない。申請人等に対する解雇が無効である以上前記金額は当然被申請人会社において支払義務あるところ、申請人等は何等の収入なく現在他より金借して辛うじて生計を維持しているのであるから、本案判決(当庁昭和三一年(ワ)第四六九号事件)の確定するまでこのままの状態でおれば回復し難い損害を蒙る虞があり、これを速に解決する必要があるのと、地位を保全されても被申請人会社より休業を命ぜられ、その他不利益な取扱を受ける虞があるので本件申請に及んだと述べ、被申請人主張の事実中争議発生後被申請人会社が事業縮少を図り、これに伴う人員整理につき被申請人主張の如き過程を経て結局残留希望者が二四一名となり、うち一一名が指名解雇されることとなつた事実、別表(二)記載の申請人藤井博の合計金額並びに同石田信男、同谷本勝志の日給が被申請人主張のとおりであることはいずれもこれを認めるが、その余の事実は総てこれを否認する。特に争議中組合に脱退届を出したもの(もつともその大部分は同時に会社に対し退職願を出している)の取扱につき争議妥結の協定成立の際、被申請人主張の如く白紙に還元してその処分を宥恕することを約したことはない。脱退者に対する処分は組合の自由意思によつてのみなさるべきものであり、会社より容喙さるべき性質のものではない。組合代表者が争議の妥結にあたり、感情的理由により脱退者を処分するがごときことは毛頭ないといつたからとて、組合の良識により、除名し会社に対しユニオン・ショップ協定に基き解雇の請求をしてはならないものとはいえない。組合は争議中又人員整理の過程でその処分を留保していたに止る。もともと組合大会の決議によらずして組合代表者が白紙還元協定をなし得べき限りでなく、この点に関する被申請人の主張は全くの事実無根である。と述べた。

(疎明省略)

被申請人訴訟代理人は「申請人等の申請を却下する。申請費用は申請人等の負担とする。」との判決を求め、申請の理由に対する答弁として、

一、申請の理由一の事実中申請人等が高屋織物労働組合の組合員であり会社の従業員であることを除きその余を認める。申請人等は被申請会社の従業員であつたが、昭和三一年一一月二日解雇したものである。申請人等の主張する争議の発生、妥結、協定に基く希望退職者の募集、一一名の剰員を生ずるにいたつた経緯は次のとおりである。

即ち会社は従来のような企業形態における操業では収益性の全くないため、オートメイション化を図り漸くそれに着手したばかりのところで争議に突入し、解決の見通もたたず被申請人会社の如き小企業の存続はとうてい不可能となるものと考えざるを得ず、遂に会社解散を決意し、解散決議のための株主総会を招集する事態に立到つた。ところが一方右争議において組合を指導して来た全国繊維産業労働組合同盟(以下全繊同盟と称す。)は会社解散により多数の組合員が職を失うことを慮り、会社に対しなんとか解散を避け、企業の合理化を図り再建して行く方途はないかと申入れ、更に第三者の斡旋もあり、会社、組合双方協議の上合理的再建の方策を検討することとなつた。かくして一〇数回に亘る連日の交渉の結果、人員の大巾な整理を伴う合理化をなすことに決定し一〇月一三日漸く再建のための協定が成立し、争議も終結することになつた。右再建案によると従来の高屋、井原両工場のうち井原工場を閉鎖して高屋工場に生産を集中し、二交替制により操業すること、従つて従業員総数三九八名中再建要員として二三〇名を残し、一六八名を減員することになり、この減員は希望退職者の募集により行い、その実施及び退職希望者が所定数に達しない場合の措置については会社、組合協議して善処すると協定せられていたことは申請人等主張のとおりである。そこで一〇月一七日会社、組合の双方より全従業員に対して、右協定の趣旨と一六八名減員の已むなきにいたつた事情を説明し、同日より同月二〇日までの間に希望退職者の募集をする旨発表したところ、二〇日の締切日までに二八一名の希望退職の申出がなされた。会社としては、協定書所定の再建要員二三〇名が一一七名に減じこの程度の減少は企業として一層合理的な形態となるので、組合に対し希望退職者の確認とその退職のための措置について協議を申入れた。ところが予想外の多数希望退職者の出たことに狼狽した組合は会社に対し、今一度組合員の真意をきくため希望退職の申出をしたものに対し残留方を勧告せられたいと申入れて来た。会社としては一度希望退職願を申出たものに対し直ちに慰留を勧告することの無意味であることを説いたが、組合はあくまでその主張を固執して譲らず、ついに再び斡旋者の意見を聞くことになり、その結果一時の激情にかられ犠牲的な気持より退職を申出た者もあるかも知れないので、若しそのようなものがあるとすれば、これらに再考の余地を与えるという意味において残留を勧告したところ、一〇月二六日において全従業員中二四一名が残留を希望する結果となつた。申請人等はその結果のみをいうのであるが、この数が出るには以上のような経過を辿つたのである。

二、申請の理由第二項記載の事実は、申請人会社が一方的に申請人等を指名解雇したとの点を否認し、その事実は総てこれを認める。会社の提案した整理基準に対し組合はこれを了解し、この整理基準によつて余剰人員を会社において指名解雇するに異議はなかつた。

三、申請の理由第三項以下は申請人等がその主張のような組合役員であつたことは認めるが、その他の点は総て否認する。即ち、

(一)  申請人等は整理該当者は申請人等以外に争議中組合に脱退届を提出し、その後組合より除名処分を受けユニオン・シヨップ協定により会社に解雇義務のあるもの、争議中希望退職を申出ているのに会社の要求で残つているもの、定年を越えてなお被傭されているもの等一〇数名があり、申請人等の解雇は必要のないものであると主張するが、争議妥結に際し、争議中組合に脱退届を、会社に退社願を出したものについては争議中という異状な事態のもとになされたものであるから、会社、組合双方とも一切を水に流し白紙に還した上、本人の真意を聞き、善意と良識をもつて善処するとの了解がついていたのである。にも拘らず組合は争議中脱退届を出したものを申請人等の指名解雇後において除名したのであるからその除名処分は協定に違背し無効である。その他のものはいずれも余人をもつて替え難く、会社再建上必要欠くべからざるものであるから、この点につき何等非難される筋合はなく申請人等の主張は理由がない。

(二)  申請の理由第四項整理基準が決定していなかつたとの主張は既に述べたとおり、一〇月二七日の団体交渉の席上において異議なく決定されたものであるから理由がない。

(三)  また、申請人等は申請の理由第五項において申請人等はいずれも整理基準に該当しないというが、前記整理基準に基き、剰員を生ずる各職種において検討した結果、申請人等を含む一一名を基準該当者として解雇したのであつて、解雇は正当である。二四一名中一一名の余剰人員といつてもそれは決して二四一名の中より一一名を選んで指名解雇するということではなく、再建要員二三〇名の職種別編成によつて剰員の出た職種は調整工四名、染色工五名、整反工外雑二名であつて、この各職種における余剰人員について前記基準に従い一一名を指名解雇したのであり、しかも再建要員二三〇名についての男女別、職種別の編成は既に一〇月一三日の協定成立の際確認せられているところである。

更に本件解雇は企業再建のための整理解雇であつて、整理基準に該当するかどうかについても当然この点について考慮さるべきである。申請人等のすべてが整理基準にあてはめて特別に悪いということではなく、残留者との比較において相対的に不良であり、このような意味において申請人等が整理基準に該当することは次のとおり明かである。

申請人岩本貞三については整理基準該当の事実は能力と徳性の二点である。同申請人は、(イ)調整工であつたが、経験年数に比して能力が劣り、特に日進月歩の新種機に対応して調整を為す能力に欠けるところがあり、(ロ)しかもその作業態度は極めて我儘、独善的であつて、同僚調整工、同職場の織布工に対し、不親切、非協調的で上長に対し指示に反するような行動が屡々みられ、責任観念が全く欠如した行動は日々の作業において顕著に窺われる。

申請人小田原英里の該当基準は勤怠と徳性である。

(イ)  勤怠よりみた場合同申請人が組合専従者となる以前の昭和三〇年四月以降昭和三一年五月までの一四ケ月間における欠勤日数は一一二日に達しその外会社の認めた組合用務のための欠勤六日を数えているのである。(ロ)更に同申請人は極めて矯慢な性格で、何回か暴力的行為があり、このような行動が従業員相互の融和を阻害し、作業に極めて悪影響を及ばすものであることは明らかである。このような点において同申請人は指名解雇されたものであつて、それが不当であるとの理由は何等見出し得ない。

申請人藤井博に対する該当基準は能力と徳性である。

同申請人は調整工であつたが、(イ)勤続年数、経験年数共に長い方でありながら能力はそれに伴わず、同人の不注意から柄の織違いをしたような不始末もある。(ロ)徳性については平素の上長に対する反抗的な態度或は職場内の秩序を故意に攪乱するような言動が顕著に現われており、職場外においても、矢田総務課長等に対する暴言事件及び会社の従業員宗好推善に対する殴打事件等の行為がある。

申請人谷本勝志に対する該当基準は能力と徳性である。

同申請人は染色工であるが(イ)最年長者であつて後輩を指導する立場にありながら軽卒怠慢の性格より何回となく粗悪品、不良品を造り度々染直しを行い、会社に多大の損害をかけた。(ロ)就業時間中職場を離れ上長より作業上の指示をしようとしても、そのために指示を与えることが出来ないようなことが屡々あり、これに対し何回となく注意を与えても何等改めることがなかつた。それは責任観念を欠如するものとして指名解雇の対象とせられるも止むを得ないところである。

申請人石田信男の該当基準は能力と徳性である。

(イ)  第一に能力の点に関し、同申請人に対しては適職なしという事実に留意しなければならない。同申請人は会社井原工場において染色工として勤務していたものであるが、従来井原工場には硫化染と藍染の二つの異つた設備を有し、二通りの染色を行つていたが、この二種類の染色方法はその原料、方法、技術において全く異り、技術的にその交流は容易になし得るものではない。同申請人は昭和二七年頃藍染工として採用したのであるが、同人の技術は採用の際の広言とは異り、度々染むら等の不良品を出し、営業課等より不満が出ていた程度のものであり、入社以来数年間やつて来た藍染の技術についてすらこの程度のもので、硫化染については少くとも入社以来一回の経験もないのである。

会社としては今回の再建にあたり、井原工場は閉鎖し、本社(高屋)工場のみによつて操業を継続することとなつたわけであるが、高屋工場には硫化染のみであつて、藍染の施設はなく、今後も藍染は出来ないわけである。しかも高屋工場には染色工(硫化染)の経験者が定員以上残留しており、入社以来一度の経験もない申請人をこれらの経験者を排除して残留させる理由は認められない。(ロ)また同申請人の職場内における言動は無責任であり、上長の指示に反抗的な態度をとることが多く、更に無銭飲食により警察沙汰となり、世上の批判を受けるような行動もあつたり、これらの事実を併せ考えた場合同申請人に対する指名解雇の措置は当然のことといわざるを得ない。

申請人田中実に対する該当基準は能力、勤怠及び徳性の三つである。

(イ)  第一に能力の点についていえば、同申請人は全般的に作業能力が劣等で、最初は事務係として勤務していたが事務能力に至つては全くこれを欠如しているといつてよい状態で、事務係より検反係に転換させたが検反係としても勤務成績は他の従業員に比し極端に劣悪であつた。(ロ)同申請人の勤務状態は昭和三〇年四月以降昭和三一年五月までの間において欠勤九三日、遅刻早退四一日という極めて不良の成績である。(ハ)更に責任観念業務態度について述べると、上長より命ぜられた検反帳記入を拒否し、反抗的態度をとつて秩序をみだし、また細羽前組合長の不詳事件に関係し解雇になるべきところを第三者の斡旋により出勤停止に止められたが、これも同申請人の責任観念の乏しさを証明するものであつて解雇はもとより正当である。

申請人藤代久士が整理基準に該当するとせられている点は業務態度と徳性である。

同申請人は(イ)職場を離れ他の職場に赴き、しかも度々上長より注意せられても改めないという事実があげられる。その結果工場全体の職場秩序を紊し懲戒解雇に値するといつても過言ではない。(ロ)しかも同申請人のこれらの行為が上長の注意に拘らず改められないばかりか、却つて反抗的な態度をとるに至つては言語道断という外はない。同申請人が指名解雇せられるのは当然である。

申請人三木忠男に対する該当基準として挙げられているところは業務態度と勤怠である。

(イ)  先づ同申請人の業務態度としてあげられる点は、その職場における態度につき不公平、偏頗なことが多く、従業員間の不平不満をかもし、職場内の融和を破壊することが特に目立つ。そのため会社としては度々その担当職場を変更してその矯正を図つたが改めるところがなかつた。(ロ)次に同申請人の勤怠としては昭和三〇年四月以降昭和三一年五月までの間における遅刻早退三八回に達し残留者との比較において著しく不良というべく同人に対する解雇もまた正当である。

(四)  申請人等は指名解雇者一一名中組合幹部八名を含むことから本件解雇は不当労働行為であると主張するところ、申請人等のうち七名(三木を除く)はいずれも執行委員であるが、執行委員一五名のうち一名は希望退職し一四名中申請人七名を除く残り七名はなお残つており、右七名中には副組合長も含まれている。況んや申請人三木忠男は支部執行委員であるが、支部執行委員中指名解雇となつたのは同人だけである。

このように見ると一一名中申請人等八名の解雇は何ら不当労働行為となるものではない。

四、以上いずれの点よりするも申請人等の主張は理由がなく、申請人等に対する解雇は正当なものであり、解雇が無効であることを前提とする給料仮払の請求もまた理由がない。仮にその必要があるとしても金額は休業手当として平均賃金の六割が相当である。尚別表(二)記載の申請人藤井博の合計金額は三四、八〇四円であり、同石田信男の日給は二六七円、同谷本勝志のそれは二三二円である。

よつて申請人等の申請は却下されるべきであると述べた。

(疎明省略)

理由

第一、当事者間争のない事実、成立に争のない甲第一号証、証人矢田健人の供述により成立を認められる乙第二号証、証人大塚長六の供述により成立を認められる同第二八号証及び右各証人の供述を綜合すると申請人等を解雇するに至つた経過は次のとおり認められる。

被申請人会社は従来の企業形態における操業では収益性の全くないため、そのオートメイション化を図り、漸くそれに着手したばかりのところ、会社組合間において昭和三一年八月二三日以降夏季一時金並に退職金規定改訂をめぐつて争議が発生し、妥結の見通しもつかぬ状態となり、被申請会社としては同会社のような小企業の存続は不可能となるものと考え会社解散を決意し解散決議のための株主総会を招集するに至つた。ところが右争議において組合を指導して来た全繊同盟は会社解散により多くの組合員が職を失う結果になることを憂慮して会社に対しなんとか解散を避け企業の合理化を図り会社を再建してゆく途はないかと申入れ、また第三者の斡旋もあり会社組合双方合理的再建の方策を検討することになつた。

当初会社は再建案として自動織機四八台、再建定員五六名を提案したが、その後一〇数回にわたる連日の交渉の結果、斡旋者の尽力もあつて会社は再建定員を順次七〇名より一二〇名、更に一八〇名乃至二〇〇名に増加し、最終的には高屋(本社)、井原両工場のうち後者を閉鎖し高屋工場に生産を集中して再建定員を二三〇名とすることとして一〇月一三日争議は妥結し、同時に協定書(甲第一号証)を作成してこれを相互に取交した。右協定書第二項によれば従業員総数三九八名中再建要員二三〇名を残して剰員一六八名を減員すること、右減員は希望退職者の募集によつてこれを行い、その実施及び希望退職者が所定数に達しないときは会社、組合協議して善処するものとされている。そこで一〇月一五日協定実施のため斡旋者を交えて団体交渉を開き、女子従業員は配置転換も容易であるし、短期間で退職するものも多いので全部整理の対象より除外し、男子従業員につき、会社はまず再建定員を職種別、男女別に編成して発表組合側も異議なく双方これを確認し、協定に従い希望退職者を募ることを決定した上一〇月一七日会社、組合双方より全従業員に対し右協定の趣旨と一六八名減員のやむなきにいたつた事情を説明し、同日より同月二〇日までの間に希望退職者の募集をする旨発表したところ、締切日である二〇日までに二八一名(四名遅れて申出があつたので結局二八五名となる。)の希望退職の申出がなされた。会社としては再建に要する理想的人員は五六名位であり、それに近いほど収益性が高いので協定書所定の再建定員二三〇名が一一三名に減ずることは企業としては一層合理的であるとして右希望退職者を除く残留者一一三名で再出発するよう組合に対し希望し退職者の確認と、その退職のための措置につき協議する旨申れた。ところが希望退職者が予想外に多かつたので、組合より会社に対し一度組合員の真意を聞くため希望退職の申入出のあつたものに対し今残留方を勧告せられたいと申出た。しかし右の問題について会社組合間の話合がつかなかつたので、再び斡旋者の意見を聞いた結果、希望退職を申出たものに再考の余地を与える意味で残留を勧告したところ一〇月二六日において全従業員中二四一名が残留を希望する結果となつた。よつて一〇月二七日残留人員の職場調整、剰員の処置について団体交渉を開き、先ず残留希望者二四一名を再建定員二三〇名に基いて編成せられた職種別定員に当てはめると剰員一一名は職種別において調整工五名、染色工四名、整反工外雑二名が各剰員となることが双方に確認せられた(別表(一)参照)。次いで剰員一一名については整理基準を設けこれに基き指名解雇することとし整理基準として(一)勤怠及び勤務態度、(二)能力(知能、技倆)(三)徳性(責任観念、品性)の三項目が決定せられ(整理基準の決定については争があり、後に判断する)右基準に基き会社は申請人等を含む一一名の指名解雇を決定し、一一月二日書面を以て解雇の意思表示をなした。叙上認定を左右するに足る疏明はない。

第二、申請人等以外に整理該当者があるから申請人等の解雇は必要性がないとの主張に対する判断。

一〇月二七日における団体交渉の席上組合側より争議中組合に脱退届を出した者を先ず整理の対象とすべく、それが容れられなければ会社に退社願を出したもの又は定年者を整理すべきであると主張したことは各疏明により認められるところであるが、前掲各証拠と証人秋山武夫の証言に前記認定した争議妥結にいたつた経費を綜合して考えると、争議中において脱退届又は退社願を提出したものの取扱は争議妥結に際し、争議中という異状な事態のもとになされたものであるから一応水に流して白紙に還し、改めて本人の真意を聞いた上で会社が善意と良識をもつて処置するとの了解が成立し、更に一〇月一五日の団体交渉の席上においてこのことが確認されたことが認められる。右認定に反する甲第五号証、同第一七号証の記載、証人黒明進、同石井勝の証言はこれを措信しない。従つてこれらのものは争議中会社に対し退職願、組合に対し脱退届を出さなかつたものとして、他の残留希望者と同様に取扱われるべきものであるから、これらのものが優先的に整理されるべきであるとする申請人等の主張は理由がない。更に右のうち七名について組合は除名処分をしたので、ユニオン・ショップ協定により会社は当然解雇義務があるからこれを解雇すれば剰員はそれだけ減少するというが前認定の如く、争議中組合に対し脱退届を出したものはそれがなかつたものとして取扱うことにしたのであるから除名処分自体に問題があるし、組合が七名の除名処分をなしたのは申請人等の解雇通知の発せられた後のことであり、右除名者七名を会社において当然解雇しなければならないかどうかは別として申請人等に対する解雇の効力にはなんら影響を及ぼすものでないと認めるを相当とする。冒頭に引用した各疏明資料によれば定年者二名についても労働協約(甲第三号証)第三四条第二項により人物技倆ともに優秀にして特に余人を以て代え難いものとして会社が従前より使用していたものであり、団体交渉においても整理すべきかどうかについては会社側は余人を以て代えることを得ず再建上必要であることを強調したため協定がつかなかつたのであるから、会社として先ずこの二名を整理解雇するの要はないものというべきである。以上のとおりであつて申請人等の主張は採用できない。

第三、整理基準について協議がつくされず従つてそれが決定していなかつたとの主張について。

真正に成立したものと認める乙第一号証、同第三号証、前示同第二号証及び証人矢田健人、同大塚長六、同穴井豊記(一部)の各証言を綜合すると、一〇月二七日の団体交渉において、解雇のための整理基準の交渉に入り会社側より基準として(一)勤怠及び勤務状態(二)能力(三)徳性の三項目を提案し、これに対し組合は勤続年数、年令、家庭の事情等を考慮するよう申入れたが、整理基準としては組合側の条件は会社において採上げず、結局普通整理解雇の場合には、勤続年数、年令等が解雇基準となつているが本件について会社の提案した前記基準でもよいとして組合側も同意し異議なく決定したことが認められる。右認定に反する甲第三号証、同第五号証、同第一七号証の記載及び証人石井勝、同穴井豊記、同黒明進、申請本人小田原英里(第一回)の各供述部分は信用できず、他に右認定を覆えすに足る疏明はない。従つて整理基準が決定していなかつたので協定に違反した無効な解雇であるとの主張は理由がない。

なお整理基準を定めそれに基いて解雇がなされるには、該整理基準が客観的に妥当性をもつものであることが必要であることはいうまでもない。ところで本件解雇は会社の企業整備による人員縮少の必要上生じた所謂整理解雇であつて、このような事情を考えると前述の整理基準のうちにはやや抽象的であり主観的であると認める余地のあるものもあり、具体的の当嵌については区別して判断することが困難と思われるものもあるが一応妥当性あるものと解するを相当とする。

第四、申請人等はいずれも整理基準に該当しないから無効な解雇であるとの主張について。

一般に使用者は従業員に対する解雇の自由を有するものであるが労働協約その他労使間に特別の協定が存する場合においては解雇に関し、それらの制約を受けることは当然である。これを本件について見ると、争議妥結の際締結せられた協定書(疏甲第一号証)第二項、更に労働協約第三六条に基き組合、会社間の団体交渉の結果、剰員一一名の解雇に関し、整理基準を協議決定したことは前認定のとおりである。従つて会社は右整理基準に該当するものについてのみ解雇し得べく、反面において基準に該当しないものは解雇しないとの義務を負うことを約したものと解するのが相当である。それゆえ若し申請人等が右整理基準に該当しないものであれば解雇は無効とされなければならないから以下各申請人等について整理基準に該当するか否かを逐次判断する。

(一)  申請人岩本貞三について。

申請人岩本は能力、徳性の二点において整理基準に該当するものとして解雇せられた。証人山成大見、同井上真三の証言及び右証言により成立の真正を認められる乙第四号証、同五号証、真正に成立したものと認める甲第六号証の二、同第九号証の一、二、同申請人本人尋問の結果を綜合すれば、同申請人は性格的にやや偏狭卑屈で独善的なところがあり部下従業員特に調整工及び女子織布工等との折合が悪かつたこともあり配置転換を度々してもとかく調和を欠き且つ上司の指図に従わないため作業に支障を来したこともあり責任観念に欠ける点もある。又技術的にも研究心に乏しいため他の工員に比して特に劣るわけではないが、経験年数よりすればその割に技倆は向上しておらず調整副係長としては担当職場の運営が十分ということはできないのもであることを認めることができる。叙上の各疏明資料中右認定に反する供述又は記載部分は措信しない。更に証人大塚長六の証言によると、同申請人は争議中高屋劇場における組合大会の席上で「大塚専務を地球上より抹殺せよ。」との暴言を吐いたことが認められ、右発言は著しく不穏当であること、正に被申請人のいうとおりであるが、争議妥結に際し、争議中に組合に脱退届を、会社に退社願を出したもの等についてはそれが争議中という異状の事態のもとになされたものとして一切を水に流し白紙に還元したことは既に認定したとおりであり、これと同時に同申請人の前記のようれ行為も同様に取扱われたものと見るべきであるから右発言をもつて申請人の徳性の判断の資に供することは相当でない。前認定の事実によれば一応同申請人は徳性、能力において整理基準に該当するものと認むべきである。

(二)  申請人小田原英里について。

同申請人は整理基準の勤怠及び徳性に該当するとして解雇せられた。証人矢田健人、同山成美次、同茂原順治、同高木勝已、同宗好推善の各証言及び右各証言並に弁論の全趣旨よりその成立を認められる乙第六号証、同第七号証、同第八号証、同第一一号証、同二六号証、同第二七号証を綜合すると、同申請人は昭和三〇年四月以降昭和三一年五月までの間出勤すべき総日数三六一日に対し、欠勤一一二日遅刻早退一九回があり、しかも無届欠勤が非常に多く上司より度々注意があつたが改まらず、ために会社業務に相当支障を来したこと、昭和三〇年二月一二日頃の深夜申請人藤井博と共に高屋町の飲食店で厭がる女工員に飲酒を強要し、偶然同所に立寄りこれを目撃して制止した工員を生意気だとし、社宅に帰つて寝ていたその工員を高屋中学校の校庭に連れだしバツトで数回同人を殴打し負傷させた事実を認めることができ、右認定に反する甲第六号証の二、同第一〇号証の一、二中の記載部分、同申請人本人尋問(第二回)の結果は措信しない。もつとも甲第一〇号証によれば右の欠勤等のうち家屋新築のための三九日(但し一〇日間は年次有給休暇)を除くほかは総て組合要務によるものである。即ち三〇年四月中副組合長となり、五月二一日以降賃金値上等の問題に関し会社と紛議を生じ、七月にいたり争議を経て落着するにいたるまでの約六〇日はその対策に腐心し、その後は事実上専従者として活躍し、翌三一年三月前組合長の解雇について紛争の生じた際その処理につき約六〇日を要しその間書記長として殆んど組合事務を代行し、四月には組合専従者となつたのであるから欠勤等は総て正当事由に基くものであるとしているが、労働協約第八条によれば労動時間外なす組合活動は労使協議会その他所定の会議会合に出席する場合(このために欠勤した六日は前記欠勤日数に含まれていない)その他必要に応じ会社の認めた場合においてのみ許され、しかも会社に対し会合の期日、場所、出席者の氏名等をその都度事前に通知すべきものであるにかかわらず、事前に通知をなさず又は会社の許可が得られなかつた場合においても組合要務のためとして欠勤したことがあることは同申請人が本人尋問(第二回)において自ら認めているところである前記欠勤等が整理基準に該当しないというがためにはそれが相当と認められる事情と相当と認められる範囲内であることが必要であつて、このことは就労時間中の組合活動であつても、就労すべき日に欠勤してなす組合活動であつても同様であるがこの点についての疏明は十分でない。同申請人が副組合長として又書記長として組合要務のため欠勤等の多かつた事情はわかるし、又三一年四月五月の欠勤、遅刻、早退を度外視しても申請人の欠勤等は著しく程度を逸脱し他の従業員との比較においても甚だしく多数回に達し従つてこのことを目して整理基準勤怠の項に該当するとの会社の主張は正当である。

以上のとおりであつて申請人は整理基準勤怠及び徳性に該当する。

(三)  申請人藤井博について。

申請人藤井の該当項目は能力及び徳性である。証人山成順次、同茂原順治、同宗好推善、同高木勝己の各証言及び成立に争のない乙第五号証及び前顕同第八号証、同第一一号証、同第二七号証、右証人の供述によりその成立を認められる同第九号証、同第一〇号証を綜合すると、申請人は性格が陰険で協調性なく、暴力的行為もあり、上司に対し協力的態度に欠けるところがあり、能力も劣り、右の具体的事実として、昭和三〇年八月頃申請人の不注意から織布九四号機、機上目取につき指図書見合せ不十分のため相当量の柄違を織上げ会社に莫大な損害を及ぼし始末書を提出している事実、同年二月一二日頃宗好推善を下駄で殴打し傷害を与えた事実(前記小田原について認定したところと同一の事実)、昭和三一年六月一二日井原市内の飲食店において矢田総務課長、高木会計課長代理(現課長)に対し暴言を吐き、乱暴を働こうとした事実等が認められる。

申請本人尋問の結果及び甲第一一の一、二号証によつても右の具体的事実については全面的に否認はしていない。又柄の織違については申請人の過失はあるが、決して単独責任ではなく、上司である係長、主任更に次の工程の係員等の共同責任で、始末書(乙二五号証)はその時の事情で書いたのであり、単独責任を認めたものではないと供述しているが、他のものに監督上責任乃至発見が遅れたことについての責任はとも角として、直接柄見本をもつて機械にかけた申請人の不注意が原因の根本をなしているものであることは、前記茂原証人の証言によつても認められ申請人もこの点については認めているようである。なお山成証人の証言中申請人の技倆は普通であつたとの供述があるが、申請人が副係長の職にあつたこともお考え合わすと、右のような重大な失敗を犯している以上、会社から能力についてとりあげられるのも止むを得ぬことといわなければならない。いわんや暴行等の事件については、職場にあつて副係長とし、組合にあつても幹部として指導的地位にある申請人の前記行為はまことに不謹慎の極みであつて、これらの事実から一応推認出来る申請人の性格、素行を考えると申請人が能力及び徳性において整理基準に該当することは明かである。

以上認定に反する甲第六号証の二、同第一一号証の一、二の各記載、同申請人本人尋問の結果は措信しない。

(四)  申請人谷本勝志について。

同申請人の基準該当項目は能力と徳性である。証人山成美次、同櫛田豊与の証言及び右証人の供述により成立を認められる乙第一二号証、同第一三号証によると、申請人は就業時間中の職場離脱が非常に多く職場を離れて染色の過程で手を抜くことにより、不良製品を出し染直しをしたようなことも度々あつたことが窺われる。申請人本人尋問の結果及び甲第一二号証の一、二によると、職場離脱は私用によるものではなく工場長より役付(同申請人は副係長)は勤務中工場内の他の職場に連絡、指導のため行く必要がある旨指令されていたので、それを実行していたというのであるが、前記各証人の証言に照し信用できず、甲第六号証の二の記載は信用しない。又染色は個人作業でなく共同作業であるから、同申請人一人のために製品が粗悪になるというようなことはないと反論しているが、証人櫛田豊与の証言によれば、同職場は僅か四名の作業員がおるだけで、しかも同申請人は副係長の地位にありながら前認定のように就業時間中の職場離脱が多いことを考えると、共同作業といつても不良製品が出た場合、同申請人の責任を問われることは止むを得ぬことである。以上のような点は同申請人の責任観念が欠如することを物語るものであり、整理基準の徳性に該当するものといわざるを得ない。能力の点については本件に顕われた疏明資料によつては基準に該当することを認めることはできない。

(五)  申請人石田信男について。

同申請人の基準該当項目は能力(適職なし)と徳性である。証人大塚長六の証言及び同証人の供述によりその成立を認められる乙第三〇号証によれば、同申請人は藍染の技倆を高く評価して採用したのに予期に反し著しく劣等であつたとされているが、証人河野一雄の証言に徴して信用出来ず却つて右河野証人の証言によると、同申請人の藍染の技術はかなりのものであり、且つ仕事の態度についても特に問題はなかつたことが窺われる。同申請人が能力において基準に該当する理由として適職なしということがあげられているのでこの点について考えてみる。

会社が再建計画において井原工場を閉鎖し、本社工場に集中して操業することになつたこと、染色部門について本社工場には藍染の施設がないことは当事者間争がない。ところで会社は同申請人は入社以来藍染のみで硫化染の経験は全くなく、しかも硫化染の経験者が定員以上残留しているのでこれらの者を排除して、同申請人を残留させる理由は認められないというのである。しかし同申請人本人尋問の結果によると、同申請人は会社入社前において藍染ばかりでなく硫化染その他染色に関し一通りの経験並びに技術をもつていることが認められる。申請人石田について適職なしというには同申請人が硫化染の技術をもたないものと認められなければならないのであつて、単に被申請会社に入社して以来藍染のみで硫化染の経験がないというだけでは同申請人が硫化染についての技術をもたないということにはならない。そうして同申請人が硫化染の技術をもつていて、しかもその技倆が残留した他の従業員に比し劣つていないとすれば、たとえ他のものは従前から硫化染の仕事に従事しており、同申請人は昭和二八年八月入社以来藍染の仕事のみをしていたとしても、その一事をもつて同申請人について適職なしということはできないであろう。右の点について同申請人について適職なしと認めるに足る疏明はない。従つて同申請人は能力(適職なし)の点において整理基準に該当しないことに帰するわけである。

前記証人河野一雄の証言、当裁判所が真正に成立したものと認める乙第一四、第一五号証を綜合すれば、同申請人はとかく言行が一致せず人間性に表裏があり、上司同僚との調和に欠ける点もあり、昭和三一年夏頃福山市の飲食店で飲食の上代金不払のまま逃走し刑事問題を惹き起した事実が認められる。以上認定に反する同申請人本人の供述部分及び甲第六号証の二、同第一三号証の一中の記載部分は信用できない。右事実によれば同申請人は基準項目徳性に該当する。

(六)  申請人田中実について。

同申請人は整理基準の勤怠及び業務態度、能力、徳性の各項目に該当するとせられる。前記乙第二六号証、成立に争のない同第三号証の一、二、同第二一号証の一及び弁論の全趣旨より成立の認められる同第二一号証の二、証人井上真三、同山部孝行の各証言を綜合すると次のようなことが認められる。同申請人は事務係として採用せられたが、事務係としての能力を欠き、検反係に職場換をさせられた。検反係としては別に技術も必要でないため仕事は普通であつたが勤務態度は不良で、職場離脱が多いため宿日直要員不適格者として勤務割から除外せられていたようなこともあり、また主任より検反帳の記入を命ぜられたがこれに従わず拒否したことがあつた。更に欠勤、早退、遅刻が極めて多く昭和三〇年四月以降昭和三一年五月までの間欠勤九三日、早退遅刻四一日があり、(申請人が盲腸手術をし、当時において特に多いわけではなく、平均している。)その他昭和三一年三月頃細羽前組合長とともに井原工場の女工員を井原市内の某旅館に誘い、同女に飲酒させた上妻帯者である細羽との結婚を勧める等社内の風紀を紊したとの理由により出勤停止処分を受けたことがあつた。

甲第六号証の二、同第一五号証の記載は前記各証人の証言その他の疏明に照し信用できない。

右認定のとおりであつて、同申請人が能力、勤怠及び業務態度、徳性において整理基準に該当することは明瞭である。

(七)  申請人藤代久士について。

同申請人の基準該当項目は業務態度と徳性である。

弁論の全趣旨より成立を認められる乙第一六、同第一七号証及び証人河野一雄の証言を綜合すれば、同申請人は染色工であるが就業時間中職場を離れて怠けていることが多く、例えば糊付場で仕事をしている如く見せかけ干場で油を売つているという有様で、再三注意を受けたことがありその性格は陰気であつて言動にも表裏があり、係長の命令に対しても素直さがなく、反抗的態度に出て作業の遂行に支障を来した事実もあつたことが認められ、右認定に反する甲六号証の二、第一四号証の記載並びに同申請人本人の供述部分は信用できない。同申請人は右の点において整理基準業務態度、徳性に該当する。

(八)  申請人三木忠男について。

同申請人に対する基準該当項目は勤怠と業務態度である。

前顕乙第二六号証、弁論の全趣旨より成立を認められる同第二二号証、同第二三号証、同第二四号証及び証人山成美次、同茂原順治の各証言を綜合すると、出勤状態が悪く、昭和三〇年四月以降昭和三一年五月までの間における欠勤一五日、遅刻早退三八回の多数に達し、他に迷惑をかけることが多く、また調整係として公平であるべきに拘らず特定の織布工の機械故障は優先的に修理し、他の織布工のところえはあまり行かず差別待遇をするようなことが屡々あつて織布工の間に不平が起り配置転換をしたり、注意を与えたりしたが改まらなかつたことが認められ、右認定に反する甲六号証の二、同第一六号証の一、二の記載、同申請人本人の供述部分は措信しない。

以上の点において同申請人は基準項目勤怠、業務態度に該当する。

叙上認定のとおりであるからこの点についての申請人等の主張は理由がない。

第五、不当労働行為の主張について。

既に認定したとおり申請人等はいずれも整理基準に該当しているのであるから特段の事由のない限り解雇は一応有効とさるべきである。

しかし申請人等が組合役員として活溌な組合活動をしてきたことは諸般の疏明資料によりこれを認めるに十分であり、本件の解雇が争議妥結後間もなく行われたこと、男子従業員の残留希望者八二名、再建要員七一名、剰員一一名の指名解雇者中、申請人等八名がいずれも組合役員であることも前段において認定したところである。更に証人大塚長六の証言(一部)によれば他の解雇者三名も組合員であり、うち一名は申請人等より以上に活溌な組合活動をしたものであることが認められ、証人穴井豊記の証言(一部)によれば一〇月二六日の団体交渉の席上、被申請人会社社長はこのような争議においては組合幹部は責任をとるべきであると発表した事実もあり、又会社としては組合幹部全員を解雇したい意向であつたが、専務取締役がこれを押えて幹部は申請人等八名に止めた事実も認めることができる。

叙上認定の各事実より考えれば、本件申請人等に対する解雇は顕著な反証のない限り申請人等が組合役員であり、組合活動をしたことを理由としてなされたものと認めるを相当とする。

ところで申請人小田原英里、同藤井博、同田中実については、前項で認定した整理基準該当の度合は極めて強度のものであつて、労働協約によつても解雇事由に該当する程度のものであり、本件解雇も右の基準該当の事由が主たる解雇原因であつたと認むべく、かかる場合たとえ差別待遇意思が伴つていたとしても不当労働行為は成立せず解雇は一応有効とすべきである。

しかしその余の申請人五名については整理基準に該当はしているがその度合は弱く、被申請人も前記基準三項目のうち申請人岩本、同谷本、同石田については能力、徳性、同藤代については業務態度、徳性、同三木については勤怠、業務態度以外の項目に該当しているとは主張しておらず、そのうち同谷本、同石田の該当項目は前認定のとおり徳性のみである。以上申請人五名より更に基準該当の度合の強いものが残留していることは申請人等の疏明し得ないところであるが、被申請人の提出援用した疏明資料によつても残留従業員より特に右申請人等が劣つていることを認めることはできない。してみれば右申請人五名に対する解雇は人員整理を機会に申請人等が組合役員であり、組合活動をしたことを理由としてなされたものと認むべく、同申請人等に対する解雇の意思表示は労組法第七条に違反しその効力なきものというのほかはない。整理解雇だからといつて基準に該当する以上残留従業員中申請人等より劣つているものの存する点についての疏明がなければ当然その解雇を有効とするのは相当ではない。殊に本件のように整理基準が抽象的で弾力性がある場合においては尚更である。被申請人主張の如く組合役員七名が残留しているとしても、又申請人三木が支部執行委員であり、支部執行委員中解雇されたものは同申請人のみであるとしても申請人等五名に対する解雇が不当労働行為とならず有効であるとするわけにはいかない。

以上のとおりであつて申請人小田原、同藤井、同田中の主張は失当であるがその余の申請人の主張は一応理由がある。

申請人小田原、同藤井、同田中に対する解雇は一応有効であるから右申請人等の申請は全部失当としてこれを却下する。

その余の申請人五名に対する解雇は無効であるから、同申請人等は被申請人会社の従業員たる地位を保有しているものというべきである。

第六、仮処分の必要の有無について。

申請人岩本、同谷本、同石田、同藤代、同三木五名に対する解雇は一応無効とすべきであるにかかわらずそれを有効として取扱い、被申請人会社の従業員たるの地位を否定されることは右申請人等にとつて財産的には著しい損害であり、精神的苦痛も甚大であることは明らかであるから、右解雇の意思表示の無効であることが確定するまでその効力の停止を求める申請部分は正当である。しかし賃金支払を求める部分については右各申請人本人尋問の結果によれば申請人等は全繊同盟より給与相当額の支給を受けて生活してきたのであるからその必要はなく、その余の申請部分は理由がなく、いずれもこれを却下する。

よつて申請費用の負担につき民訴法第八九条第九二条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 林歓一 藤村辻夫 野曾原秀尚)

(別表省略)

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